「スポーツをやめた後」に残るもの

「この先、競技をやめた後、あなたの人生には何が残るでしょうか。」
この問いを、日々の練習や試合の中で考える機会はどれほどあるでしょうか。
多くのアスリートが競技に全力を注ぎ、結果を追い求める中で、“やめた後”の人生について考える時間は、どうしても後回しになりがちです。
しかし、どんなトップ選手にも、いつか必ず競技を離れる日が訪れます。
そのとき、「スポーツを通して何を得たのか」が、その後の人生を大きく左右します。
競技人生の先を見据えた指導
「結果」よりも「プロセス」に価値を見出す指導
スポーツ指導の現場では、勝敗や記録といった“結果”が重視される場面が多いものです。
もちろん、競技者として成果を目指す姿勢はとても大切です。
ですが、子どもや若い選手たちにとって、本当に重要なのは「結果に至るまでのプロセス」ではないでしょうか。
たとえば、
・自分の弱点を分析し、克服するために努力する力
・チームの中で自分の役割を果たそうとする責任感
・困難な状況でも最後までやり抜く粘り強さ
こうした経験は、競技を離れた後も社会で生きていくうえで大きな財産になります。
指導者が「なぜこの練習をするのか」「どのように成長につながるのか」を選手と共有し、考える時間をつくることで、競技は“自己成長の場”へと変わっていきます。
スポーツを通じて育まれる「社会で生きる力」
スポーツが育てる力は、単に身体能力や技術だけにとどまりません。
近年、「非認知能力」という言葉が注目されているように、目には見えない“人間としての力”こそが、これからの社会を生きる上で欠かせないものです。
たとえば、
・目標を立て、努力を継続する「自己管理力」
・仲間と協力し合う「コミュニケーション力」
・失敗を受け入れ、次に活かす「レジリエンス(回復力)」
これらは、どんな職業・環境でも必要とされる普遍的な力です。
だからこそ、指導者は「勝てる選手」を育てるだけでなく、「社会で生きていける人」を育てる視点を持つことが大切だといえます。
「燃え尽き症候群」を防ぐために――競技の先を語る時間を
スポーツに全てを懸けてきた選手ほど、引退後に空虚感を抱きやすい傾向があります。
それは「スポーツ=自分の存在価値」と思い込んでしまうことが原因の一つです。
競技をやめた瞬間、自分の価値を見失い、「何をすればいいのか分からない」と感じてしまう。これがいわゆる“燃え尽き症候群”の背景にあります。
このような状態を防ぐためには、現役時代から「スポーツ以外の自分」と向き合う時間を持つことが大切です。
たとえば、
・将来どんな仕事をしたいかを考える
・他の競技や文化に触れる
・地域活動やボランティアに参加する
競技以外の経験を通して視野を広げることで、「スポーツは人生の一部であり、すべてではない」という考え方が自然に育まれます。
その考えを伝え、導くこともまた、指導者の大切な役割ではないでしょうか。
「勝たせる指導」から「育てる指導」へ
スポーツの現場では、「勝つための指導」が重視されがちです。
しかし、選手たちの人生の長さを考えれば、本当に求められるのは「育てる指導」ではないでしょうか。
たとえ試合に負けても、努力を続ける姿勢や人としての成長が見える選手を育てることができれば、その指導は必ず未来に生きていきます。
「スポーツで培った経験は、人生のどんな場面でも役に立つ」
そう信じて送り出せるような指導こそ、これからの時代に必要とされるものです。
指導者自身も「競技の先」を見据える
選手だけでなく、指導者自身も「競技の先」を見据える必要があります。
チームを勝たせることに一生懸命になるあまり、選手の“人生教育”がおろそかになっていないか。
もしそう感じる場面があるなら、指導の在り方を見つめ直すことも大切です。
スポーツは、人を育て、強くするための手段です。勝敗はあくまでその過程であり、目的ではありません。
指導者自身が「この経験を通して、選手に何を残したいのか」を明確にすることで、日々の言葉や行動にも一貫性と温かさが生まれます。
「スポーツをやめた後」に残るもの | まとめ
スポーツをやめても、そこで得たものは決して消えません。
努力を重ねた時間、仲間との絆、挑戦を恐れず立ち向かった経験、それらはどんな時代でも通用する“生きる力”です。
だからこそ、指導者が育てるべきは「勝つための選手」ではなく、「人生を自分の力で切り開いていける人」。
競技人生の終わりは、成長の終わりではありません。
むしろそこからが、本当の“人生の試合”の始まりなのです。