“怪我をチャンスに変える”選手の育て方
スポーツにケガはつきものです。どんなに注意深く練習を重ねても、予期せぬアクシデントで離脱を余儀なくされることがあります。
特に、試合や大会を控えていた選手にとって、ケガによる離脱は「成長のストップ」どころか「人生の終わり」と感じるほどのショックを与えることもあります。
しかし一方で、リハビリ期間を経て復帰した選手が、以前よりも強く、賢く、チームへの貢献度を高めて戻ってくる例も少なくありません。そこには、指導者の「支え方」が大きく関係しています。
今回は、ケガをきっかけに選手をより成長させるための指導のヒントを考えてみましょう。
“怪我をチャンスに変える”選手の育て方
1. ケガ直後の「心のケア」が最優先
ケガをした選手が最初に直面するのは、身体的な痛みではなく「喪失感」です。
「チームに迷惑をかけた」「試合に出られない」「もう元のプレーはできないかもしれない」―そんな不安や自己否定が頭をよぎります。
この時期、指導者が「早く治せ」「焦るな」といった言葉をかけても、選手の心には届きません。
まず必要なのは、感情を受け止めることです。
「今はつらいよな」「悔しい気持ちは分かる」――そんな共感の一言が、選手の心を支える大きな力になります。
指導者は“アドバイスする人”ではなく、“寄り添う人”としての姿勢を持つことが重要です。
2. 「やれることはある」と気づかせる
ケガをした選手が一番恐れるのは、「取り残されること」です。チームが練習を続ける中、自分だけが何もできないという感覚が孤独や焦りを生みます。
この時期に大切なのは、「できないこと」ではなく「できること」に意識を向けさせることです。
例えば、
上半身のトレーニングや体幹強化
映像を見ながらの戦術理解・分析
若手選手へのアドバイスやサポート役
といった形で、チームへの関わり方を提案するのも効果的です。
指導者が「今できることを一緒に考えよう」と伝えることで、選手は前向きなエネルギーを取り戻します。
ケガを理由に「何もできない」と思わせない環境づくりが、リハビリ期のモチベーション維持につながります。
3. 「リハビリも練習の一部」という意識づけ
多くの選手は、リハビリを“回復のための我慢の時間”と捉えがちです。
しかし、本来リハビリは“自分の身体を再設計する時間”でもあります。
フォームの癖を見直したり、使えていなかった筋肉を意識化したりすることで、復帰後に以前よりも安定したプレーができるようになることも多いのです。
指導者は「リハビリ＝成長の時間」という意識を選手に持たせることが大切です。
「リハビリを丁寧にやった選手ほど、戻った時に強くなる」
「今は土台を整える大事な期間」
こうした言葉を繰り返し伝えることで、選手は“我慢”ではなく“準備”としてリハビリに取り組むようになります。
4. チーム内での「つながり」を保つ工夫
ケガをした選手が孤立しやすいもう一つの要因は、“チームとの距離”です。
練習に参加できない日々が続くと、自然とコミュニケーションの機会が減り、仲間意識が薄れてしまうこともあります。
指導者としては、チーム全体がその選手を「仲間として支える空気」をつくることが求められます。
たとえば、
練習見学時に選手が戦術ボードを使って意見を出す
試合前にチームミーティングへ参加させる
SNSやグループチャットで練習の共有を行う
といった工夫が有効です。
「自分はチームの一員であり続けている」と実感できることが、選手の心を前向きに保ちます。
5. 復帰後に起こりやすい“恐怖心”へのサポート
リハビリを終えてグラウンドに戻ったとしても、選手の心はすぐには元に戻りません。
「またケガをするのではないか」「思い切りプレーできない」という恐怖心は、多くの選手が経験するものです。
この段階で、焦って100％のプレーを求めるのは逆効果です。
まずは「怖さを感じるのは自然なこと」と受け入れ、少しずつ成功体験を積ませることが重要です。
小さなプレーでも「今の動き、良かったぞ」と肯定する声かけが、自信の再構築につながります。
また、復帰のペースは個人差が大きいため、「チームに合わせる」よりも「その選手に合わせる」柔軟な対応が求められます。
復帰後のケアこそ、真の意味での“育成”の時間なのです。
6. ケガを通して「人として成長する」
ケガは、選手にとって最大の試練です。しかし、そこから学べることも多くあります。
自分の身体を見つめ直し、仲間の支えに感謝し、努力の方向性を考え直す――ケガを経験した選手ほど、人間的にも成熟する傾向があります。
指導者にできることは、「なぜ自分がこの経験をしているのか」を選手と一緒に考えることです。
「この期間があったからこそ、プレーを客観的に見られるようになった」
「チームメイトの気持ちを理解できるようになった」
そんな気づきを与えることができれば、ケガは“挫折”ではなく“成長の通過点”になります。
“怪我をチャンスに変える”選手の育て方 | まとめ
ケガをした選手にとって、最も必要なのは“励まし”よりも“理解”です。焦らせるのではなく、寄り添い、信じ、支える――この姿勢が選手の再起を支えます。
リハビリ期間は、「競技力」だけでなく「人間力」を育てる貴重な時間でもあります。
指導者がその価値を見抜き、「ケガも成長の一部」と伝えられるチームこそ、真に強いチームと言えるでしょう。
