多様性の時代に必要なコーチング

2025.10.14

指導者

スポーツの世界は、これまで「同じルールのもとに競う」ことを前提に発展してきました。

しかし、現代社会ではその前提が少しずつ変わりつつあります。

グローバル化やジェンダー意識の変化により、選手一人ひとりの「背景」や「価値観」が多様化しているのです。

そんな時代において、指導者に求められるのは“技術指導”だけではなく、“人としての理解”です。

「誰にでも同じ指導」ではなく、「その人に合った指導」が求められています。

コーチングの多様性ジェンダー・文化背景への配慮

「多様性」とは“違いを認めること”ではなく、“違いを活かすこと”

多様性（ダイバーシティ）という言葉は広く使われていますが、単に「違いを受け入れる」だけでは本質的な理解とは言えません。

大切なのは、その“違いをどうチームの力に変えるか”という視点です。

たとえば、文化や宗教によって食事や練習参加の時間帯に制限がある選手もいます。

また、男女の体の構造やメンタルの傾向の違いから、同じメニューでも受け取り方が異なることもあります。

それを「わがまま」と片づけてしまえば、選手の持つ個性や力は引き出せません。

むしろ「その違いがチームにどんな良い影響を与えるか？」を一緒に考える姿勢こそ、真の意味での“多様性対応型コーチング”と言えるでしょう。

ジェンダーへの理解がチームを強くする

スポーツ指導の中で特に注目されるのが、ジェンダーへの配慮です。

女子選手が増える一方で、男性コーチが中心のチームでは、無意識の偏見（アンコンシャス・バイアス）がトラブルの原因になることがあります。

たとえば、「男子のように根性で乗り切れ」と励ます言葉が、女子選手にとってはプレッシャーとして働くことがあります。

逆に、「女の子だから無理しなくていい」と言ってしまうと、挑戦の機会を奪ってしまうことにもつながります。

大切なのは、“性別によって指導を変える”のではなく、“個人として尊重する”というスタンスです。

また、月経周期に伴う体調変化など、女性特有の身体リズムへの理解も欠かせません。

最近では、体調やメンタルの変化を可視化するアプリを導入して、トレーニング計画を個別調整するチームも増えています。

「無理をさせないこと」もまた、選手を思う指導の一つです。

異文化理解は「共通点を探すこと」から

国際大会や留学生の増加により、異文化を持つ選手と関わる機会も増えています。

しかし、文化の違いを“壁”と感じてしまうと、指導はうまくいきません。

その際に意識したいのは、「違い」よりも「共通点」に目を向けることです。

たとえば、
・チームワークを大切にする姿勢
・勝利への情熱
・努力することの価値

これらは文化を超えて共有できる“スポーツの共通言語”です。

「あなたはどう感じる？」「あなたの国ではどうしている？」と質問を投げかけ、互いに学び合う姿勢を見せることで、信頼関係は自然と深まります。

また、言葉の壁を感じる場合は、通訳を介するだけでなく、表情・ジェスチャー・動画などを使った“非言語的コミュニケーション”も効果的です。
「伝えよう」とする姿勢が、最も大きな信頼のメッセージになります。

安全で“安心できる場づくり”が、力を引き出す

多様な背景を持つ選手にとって、安心して意見を言える環境は何より重要です。

「間違っても大丈夫」「違う考え方を持っていても尊重される」――そう感じられるチームでは、選手の主体性が育ちます。

指導者が「これはどう思う？」と選手に問いかけたり、「意見を聞かせて」と場を開くことは、単なるコミュニケーション以上の意味を持ちます。

それは、“あなたを尊重している”というメッセージなのです。

結果として、選手は自分の考えを持ち、判断し、行動するようになります。

多様性を認めることは、最終的に「自立した選手」を育てることにもつながっていきます。

多様性の理解は「特別な配慮」ではなく「当たり前の基礎」

多様性への対応というと、特別なスキルや知識が必要だと感じる指導者も少なくありません。

しかし、本質はもっとシンプルです。

「選手一人ひとりを、かけがえのない個人として尊重する」――その意識こそが、最も重要な基礎です。

選手の背景や価値観を知り、「あなたのことを理解したい」と関心を持つ。

そこから始まる小さな対話の積み重ねが、信頼を生み、チームの力を底上げしていきます。

“違い”を恐れるのではなく、“違い”の中に学びを見出す――それが、これからのコーチングに求められる姿勢です。