「考える選手」を育てるための“質問力”とは?

近年、スポーツ現場で「考える選手を育てたい」という声を多く聞くようになりました。
特にジュニアからユース世代にかけては、スキルや体力と同様に、判断力や思考力を伸ばす育成が求められています。
その鍵を握るのが、指導者の“質問力”です。ただ答えを教えるのではなく、「どう思う?」「なぜそうしたの?」と問いかけることで、選手は自らの頭で考え、プレーの選択肢を広げていきます。
本記事では、「考える力」を持った選手を育てるために指導者が身につけるべき“質問のスキル”について、実践的な視点からご紹介します。
「考える選手」がチームを変える
判断力や状況判断は、試合の勝敗を左右する大きな要素です。
自ら状況を見て判断し、臨機応変に動ける選手が増えることで、チーム全体の戦術理解度や試合運びの安定性も高まります。
一方で、指示がないと動けない、予想外の状況に対応できない、といった「受け身の選手」ばかりでは、応用力のあるチームづくりは難しくなります。試合中、ベンチから声をかけられない場面でも、自分で考え、決断し、責任を持って行動できる選手。
そうした人材こそが、これからのチームを引っ張る存在になるのです。
「教える」から「引き出す」へ
従来の指導では、「こうしなさい」「ここではこう動く」といった“答えを与える”スタイルが主流でした。
もちろん、基礎段階では必要な面もありますが、それだけでは選手は“指示待ち”の姿勢になってしまいます。
「考える選手」を育てるためには、指導者が“引き出す”立場に立つことが重要です。そのために必要なのが、選手の思考を促す“質問”です。
選手の思考を引き出す「質問」の力
質問には、選手の意識を変え、視野を広げ、学びを深める力があります。
ここでは、現場で使える代表的な質問のタイプを紹介します。
① なぜ?を問う「理由探究型」
例:「なぜそのプレーを選んだの?」「その場面でシュートを打とうと思った理由は?」
このタイプの質問は、選手が自分の判断を振り返る機会になります。「なんとなく」で済ませていたプレーを言語化することで、同じ場面に再び出会ったときの判断がより洗練されていきます。
② どうしたらもっと良くなる?と問う「改善提案型」
例:「もっといい選択肢があるとしたら?」「次はどうすればチームとして成功しそう?」
こうした質問は、選手に「仮説」を立てる習慣を促します。正解を求めるのではなく、「より良い答えを自分なりに考える姿勢」を育てることが目的です。
③ 選択肢を与えて選ばせる「比較型」
例:「パスとドリブル、どちらの方が良かったと思う?なぜ?」
選手に2つ以上の選択肢を提示し、自分で選ばせることで、「なぜその選択をしたのか」を自覚的に整理できるようになります。判断力と説明力の両方が鍛えられます。
④ チーム視点を促す「俯瞰型」
例:「あのときチームメイトはどう動いていた?」「相手は何を狙っていたと思う?」
個人プレーだけでなく、チーム全体の動きや相手の意図を読み取る視点を養うための質問です。試合を“全体の流れ”で見る力が育まれます。
実践例:「質問→内省→共有」の流れをつくる
質問力は、一つひとつの問いかけだけでなく、「問いかけ→内省→共有」というサイクルを日常的に設けることで、より効果的になります。
たとえば練習後のフィードバックタイムでは、以下のような流れが有効です。
・指導者が問いかける(「今日、一番うまくいった場面は?なぜ?」)
・選手が言語化し、整理する
・チーム全体で共有する
このプロセスを繰り返すことで、選手は「自分で振り返り、自分で学ぶ習慣」が身につきます。
最初は戸惑う選手も、繰り返すうちに自然と思考が深まり、主体性のある言動が増えていきます。
指導者に求められる“余白”と“我慢”
選手に問いを投げかけたあと、すぐに答えが返ってこないと、つい指導者が答えを言ってしまいたくなるかもしれません。しかし、その“沈黙の時間”こそが、選手の頭が動いている証拠です。
大切なのは、「正解を言い当てる」ことではなく、「自分の考えを持ち、それを表現すること」です。指導者はそのプロセスを尊重し、急がず、待ち、促す姿勢が求められます。
また、問いかけの質を高めるには、指導者自身も「選手の立場に立って考える」トレーニングが必要です。選手の状況、背景、理解度に応じて、言葉の選び方やタイミングを変えていく柔軟性もまた、“質問力”の一部なのです。
“問い”が未来の思考力を育てる
スポーツの技術や体力は、年齢や環境によって伸び方に差があります。
しかし、「考える力」は、どんなレベルの選手にも平等に育てるチャンスがあります。
その鍵を握るのが、日々の“問いかけ”です。選手の中に眠る思考の芽を刺激し、育てるのは、指導者の言葉です。
一方的に教えるのではなく、問いかけを通じて引き出す指導。
それこそが、未来を切り開く選手たちの“判断力”を育てる最も確かな方法なのではないでしょうか。