モチベーションが波打つ選手の扱い方

スポーツの現場では、「練習にムラがある」「やる気の波が激しい」といった選手は少なくありません。
ある日は集中してプレーしているのに、次の日には全く覇気がない。
指導者としては、「どうすれば安定したモチベーションを保てるのか」と頭を悩ませる場面も多いでしょう。
しかし、モチベーションの波は「怠け」や「意識の低さ」ではなく、成長過程にある選手の自然な心理反応でもあります。
大切なのは、波を完全に消そうとするのではなく、その波を理解し、安定へ導く指導を行うことです。
モチベーションが波打つ選手の扱い方
モチベーションが波打つ理由
選手のモチベーションが上下する背景には、さまざまな要因があります。
成果と努力のギャップ
一生懸命練習しても試合で結果が出ないと、「頑張っても無駄」と感じやすくなります。
努力が報われない経験は、やる気を一気に下げてしまう要因です。
評価に対する敏感さ
監督・コーチ・仲間・保護者など、周囲の評価を強く意識する選手ほど、外部の反応によってモチベーションが左右されやすくなります。
目的の不明確さ
「なぜ自分は練習しているのか」「何を目指しているのか」が曖昧だと、モチベーションの軸が定まりません。
目標が“他人からの評価”だけになっている場合も、波が大きくなりがちです。
心身のコンディション
思春期の選手であれば、身体の変化や学校生活のストレスなど、外的要因も影響します。
疲れやプレッシャーがたまると、やる気が下がるのは自然なことです。
波を理解し、責めずに受け止める
まず大切なのは、「モチベーションが落ちている=悪いこと」と決めつけない姿勢です。
どんな選手にも好不調の波はあります。
その波を「問題」と捉えるより、「今どんな心理状態なのか」を理解しようとすることが、信頼関係の第一歩です。
たとえば、
「最近少し元気がないようだけど、何かあった?」
「うまくいかないときって、誰にでもあるよ」
といった受容的な声かけを行うことで、選手は「自分を理解してもらえている」と感じ、心が安定します。
一方で、「なんでやる気がないんだ」「気持ちが足りない」と叱責すると、選手はますます心を閉ざしてしまいます。
心理的な安全を確保することが、波を安定させる第一歩です。
モチベーションを安定させる3つの指導アプローチ
1. “できた”を増やす練習設計
モチベーションが下がる主な原因は、「自分にはできない」という感覚です。
そのため、選手に“小さな成功体験”を積ませる練習設計が有効です。
たとえば、
短時間で達成可能な課題を設定する
難易度を段階的に上げていく
成果を数値や動画で見える化する
「できた」「成長した」という感覚があると、自己効力感が高まり、やる気は自然と安定します。
2. “他人基準”から“自分基準”へ導く
多くの選手は、「コーチに褒められたい」「レギュラーに選ばれたい」といった外発的動機づけに頼っています。
しかし、外部の評価はコントロールできないため、モチベーションが不安定になりがちです。
指導者は、選手に「自分自身の基準」を持たせるサポートをすることが大切です。
たとえば、
「今日は昨日よりも声を出せたね」
「自分の目標に少し近づいたと思うけど、どう感じた?」
といった“自己評価”を促す質問を投げかけます。
このように、自分で成長を実感できる選手は、モチベーションが外部環境に左右されにくくなります。
3. “目的”を定期的に確認する
モチベーションが落ちているとき、選手は「何のためにやっているのか」を見失っています。
そこで指導者が、“原点に立ち返る時間”をつくることが大切です。
たとえば、
「サッカーを始めたきっかけは何だった?」
「今、どんな選手になりたい?」
こうした対話を通じて、“自分の目的”を思い出させることで、モチベーションの軸が再び明確になります。特に育成年代では、目標設定を一度決めたまま放置するのではなく、定期的に更新・再確認することが重要です。
指導者の姿勢が選手の安定をつくる
選手のモチベーションの波は、指導者の言動によっても大きく左右されます。
たとえば、指導者が感情的に叱ったり、日によって態度が変わったりすると、選手は「今日はどんな気分なんだろう」と不安になり、精神的に不安定になります。
反対に、一貫した姿勢で接する指導者は、選手に安心感を与えます。ミスをしても感情的にならず、同じ基準で評価し続けることで、選手は「この人のもとなら安心して頑張れる」と感じます。それが、モチベーションの安定につながっていくのです。
モチベーションが波打つ選手の扱い方 | まとめ
モチベーションの波は、誰にでも起こり得る自然な現象です。
それを“問題”として抑え込もうとするのではなく、“理解”と“支援”をベースにした指導へと切り替えることが求められます。
・選手の心理状態を受け止め、安心できる関係を築く
・小さな成功体験を積ませ、自信を取り戻させる
・自分基準の目標設定を促し、外部評価に依存しない姿勢を育てる
・指導者自身が一貫した態度で接し、信頼を積み重ねる
モチベーションを安定させる最も大きな要素は、「信頼」と「理解」です。
選手の心理的な波を責めずに受け止め、共に乗り越えていく姿勢こそが、長期的な成長を支える土台となるのです。