SNS世代の選手とどう向き合うか

いまの若い世代にとって、SNSは生活の一部であり、切っても切り離せない存在です。スポーツの現場でも例外ではなく、練習後の振り返りや仲間との交流、プロ選手のプレー動画の視聴など、日常的にSNSを活用している選手が増えています。一方で、情報の洪水の中に身を置くことは、育成の現場に新たな課題をもたらしているのも事実です。
指導者は「SNSは悪影響」と一方的に否定するのではなく、選手の育成に与えるメリットとデメリットの両面を理解し、適切に向き合っていく必要があります。
情報環境が育成に与える影響
1. SNSが育成に与えるプラスの側面
(1)トップ選手から学べる機会が増える
SNSを通じて、海外のプロ選手のトレーニング方法や試合中の動きを動画で簡単に見ることができます。過去にはコーチの指導や限られた教材からしか学べなかったものが、今では自ら情報を探し、吸収することが可能になりました。これは学習の幅を広げ、選手が自主的に成長する大きなきっかけになります。
(2)自己表現と承認欲求の満たし方
自分のプレーを動画に撮って発信することで、仲間やフォロワーから反応をもらえることは、モチベーションにつながります。特に思春期の選手にとっては「認めてもらえる場所」を得ることが精神的な支えとなる場合も少なくありません。
(3)情報収集力の向上
SNSを活用する中で、興味のあるテーマを深く掘り下げる力や、自分にとって有益な情報を選び取る力が鍛えられるケースもあります。現代社会に必要とされる“情報リテラシー”を自然と身につける場にもなり得ます。
2. SNSがもたらすリスクと課題
(1)比較による自己肯定感の低下
SNSでは華やかな場面や成功体験だけが切り取られることが多く、「自分はあの選手より劣っている」と感じてしまうリスクがあります。特に思春期の選手は他人と自分を比較しやすく、自己肯定感の低下や過度な焦りを引き起こす可能性があります。
(2)誤情報への影響
トレーニング方法や食事法など、専門的な知識を伴う分野で誤った情報に触れることは少なくありません。正しい根拠を持たない方法を試すことでケガのリスクを高めたり、パフォーマンスを落としたりする恐れもあります。
(3)時間の浪費と集中力の低下
SNSは一度見始めると時間を奪われやすい構造を持っています。練習や学業に充てるべき時間が削られたり、常に通知が気になって集中力が続かなかったりする点は、育成上の大きな課題です。
3. 指導者に求められるアプローチ
(1)頭ごなしに禁止しない
SNSを完全に禁止すると、かえって選手は隠れて利用するようになり、問題が見えにくくなります。大切なのは「なぜリスクがあるのか」「どんな使い方なら有益か」を一緒に考えることです。禁止よりもリテラシー教育が重要だと言えます。
(2)情報の見極め方を指導する
「この情報はどこから出ているのか」「誰が発信しているのか」「再現性があるか」といった視点を持たせることで、選手が情報を鵜呑みにせず、自分で判断する習慣を身につけられます。
(3)比較ではなく「自分の成長曲線」に目を向けさせる
SNSで他人と比較して落ち込む選手には、「昨日の自分と比べてどう成長したか」という視点を意識させることが大切です。練習日誌や動画記録を活用して、自分自身の変化を可視化することは効果的です。
(4)ポジティブな活用方法を提案する
「世界の選手の動きを研究する」「自分のプレーを振り返る」「目標を発信してモチベーションを高める」といった建設的な使い方を促すこともできます。SNSを“敵”ではなく、“味方”に変える視点を持ちましょう。
4. 保護者との連携も不可欠
SNSの利用は家庭環境とも密接に関わります。指導者だけでなく、保護者とも連携し、「利用時間の目安」や「投稿内容に関するルール」を共有することが望ましいでしょう。例えば「夜は〇時以降は利用しない」「個人情報やチーム内の秘密は発信しない」といった基本的な約束事を設けることで、選手の安心・安全を守ることができます。
5. SNS世代だからこそ育つ力もある
否定的に語られることの多いSNSですが、選手たちはその環境の中で育っており、むしろ「SNS世代だからこそ身につけられる力」も存在します。情報を発信する力、自分の考えを言葉や映像で表現する力、世界中の選手とつながる力は、これからの時代に欠かせないスキルです。
指導者がその可能性を認めて活用をサポートすれば、SNSは選手を育てる大きな武器になり得ます。
SNS世代の選手とどう向き合うか | まとめ
SNS世代の選手と向き合う上で大切なのは、「禁止するか」「許可するか」という二者択一ではありません。情報環境のメリットとリスクを理解し、選手自身が賢く使いこなせるように導くことです。
SNSは、指導者にとっても未知の挑戦を突きつける存在かもしれません。しかし、選手と同じ目線で学び、対話を重ねることで、時代に合った新しい育成の形を築いていくことができるはずです。