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認知負荷理論から考える「頭が疲れる練習」と「成長する練習」

育成年代の指導において、選手が「疲れた」と感じるとき、その原因は必ずしも身体的疲労だけではありません。むしろ現代のスポーツでは、戦術理解や状況判断が高度化しているため、“頭の疲れ”=認知的疲労が大きなウェイトを占めています。この“頭の疲れ”が良い方向に働くのか、それとも負担だけになってしまうのか。その分岐点を理解するうえで役立つのが、教育心理学で用いられる「認知負荷理論(Cognitive Load Theory)」です。

認知負荷理論では、学習者の頭の中で使われる負荷を3種類に分けて考えます。

内的負荷(Intrinsic Load):学習内容そのものの難しさ
外的負荷(Extraneous Load):余計な情報・やりにくさが加える負担
関連的負荷(Germane Load):理解を深めるために必要な負荷

この考え方をスポーツに応用すると、「同じ練習でも、成長につながるかどうかは負荷の種類によって変わる」ということが見えてきます。

認知負荷理論から考える「頭が疲れる練習」と「成長する練習」

① 「頭が疲れるだけの練習」とは?

まずは、成長につながりにくい“悪い疲れ”について整理します。

1. 外的負荷が高すぎる練習

外的負荷とは、学習の本質とは関係のない余計な要素です。
例えば、
・説明が長すぎて理解しにくい
・練習の意図がわからない
・コートが狭すぎたり広すぎたりでプレーしづらい
・ルールが複雑すぎる
といった状況が当てはまります。

選手はプレーそのものに集中できず、「何をすればいいのか」にエネルギーを割いてしまいます。その結果、頭は疲れるものの、成長には結びつきにくくなります。

2. 内的負荷が過剰な練習

内的負荷は、課題そのものの難しさです。
例えば、戦術理解が浅い選手に、いきなり高度なポジショニングや連動した動きが求められる練習を行うことなどが該当します。

理解度が足りないまま複雑な状況に放り込まれると、選手は「できない」「わからない」に意識が向いてしまい、モチベーション低下や萎縮につながります。

② 「成長する練習」に必要なのは“関連的負荷”

一方、選手が成長するときには、頭を使って考えたり、理解を深めたりするための負荷=関連的負荷が適度にかかっています。

1. “考えることに集中できる環境”

例えば、
・狙いがシンプルで理解しやすい
・制限が明確で、何を意識すればいいかわかる
・成功イメージを持てる状況設定
などの環境では、選手は本質的な課題に集中できます。

2. “理解を促す問いかけ”

指導者の問いかけにより、関連的負荷は増加します。
「なぜその選択をしたの?」
「今の状況なら他にどんな方法があった?」
といった問いは、選手の認知処理を深め、学習効果を高めます。

③ 認知負荷を整える練習設計のポイント

ポイント①:まず“外的負荷”を減らす

余計な説明や複雑なルールを減らし、練習意図を明確にします。
たとえば、
・説明は短く
・ルールは2つ以内
・目的は1つに絞る
これだけで、選手は本質的な部分に集中しやすくなります。

ポイント②:内的負荷は“段階的”に上げる

難易度は階段状に上げることが重要です。

まず個人戦術
2人組の連携
3人組での判断
ゲーム形式で実践
とステップを踏むことで、無理なく関連的負荷が高まります。

ポイント③:認知負荷をコントロールする“制限”を使う

制限(エリア・タッチ数・時間)を適切に設定すれば、選手は狙いを明確にできます。
例:
・「2タッチ以内」→判断スピード向上
・「ボール保持側は幅を取る」→ポジショニングの理解向上
・「守備はボールとゴールの間に立つ」→基本原則の徹底

制限は“外的負荷を増やすもの”ではなく、“関連的負荷を高める道具”であることが重要です。

④ 「頭が疲れるけど成長する」理想の練習とは?

理想的な練習では、選手は次のように感じます。

・「難しいけど理解できる」
・「考えれば解決できそう」
・「次はもっと良くできる気がする」

これは、適度な内的負荷と関連的負荷がかかっている証拠です。
逆に、
・「何をすればいいかわからない」
・「ただ混乱するだけ」
という状況は外的負荷が高すぎるため、練習設計の改善が必要です。

認知負荷を整えることで“質の高い成長”が起こる

認知負荷理論は、スポーツの練習設計において非常に有効な考え方です。
ポイントは、

外的負荷を減らす
内的負荷を段階的に調整する
関連的負荷を適度に増やす
という3つです。

選手が「頭が疲れた」と感じながらも、表情が明るかったり、翌日のプレーが変わっていたりするなら、それは“成長する疲れ”です。指導者が認知負荷を理解しながら練習を組み立てれば、選手はより深く考え、判断し、スポーツの面白さと成長を同時に体感できるようになります。

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