指導者間で指導方針がズレると何が起こるか

チームに複数の指導者が関わる場合、選手への指導内容が一致していることは非常に重要です。
しかし、現場では「Aコーチはこう言うのに、Bコーチは違うことを言う」といったズレが生じることが少なくありません。このような“方針の不一致”は、選手の混乱を招くだけでなく、チーム全体の信頼関係や成長スピードにも大きな影響を与えます。
本記事では、指導者間のズレが引き起こす具体的な問題と、それを防ぐためのチーム内調整のポイントについて、実例を交えて考えていきます。
指導者間で指導方針がズレると何が起こるか
1. 方針のズレが選手の「迷い」を生む
最も分かりやすい影響は、選手の混乱です。たとえば、サッカーの育成年代チームでこんなケースがありました。
Aコーチは「ボールを持ったらまず前を向こう」と指導し、Bコーチは「リスクを避けて、安全なパスをつなげ」と言う。
どちらも間違いではありませんが、選手からすれば「どっちの言葉を信じればいいのか」と迷ってしまいます。この“迷い”がプレー中の判断遅れにつながり、結果的に自信の喪失を招くのです。
特に育成年代では、「何を基準にプレーすればいいのか」が明確でないと、選手が自分の判断を持てず、“指示待ち型”になってしまう危険性があります。
2. 指導者への信頼が揺らぐ
方針が統一されていないと、選手の中で「このコーチの言うことは信用できるけど、あの人は違う」というような信頼の分断が起こります。結果的に、チーム内に“派閥”のような空気が生まれ、コミュニケーションがぎくしゃくしてしまうこともあります。
実際、あるジュニアユースチームでは、監督とアシスタントコーチが守備の考え方で対立していました。監督はゾーンディフェンスを重視していたのに対し、アシスタントはマンツーマンの意識を選手に求めていたのです。
選手たちは混乱し、「どっちのやり方で守ればいいのか分からない」と不安を訴えるようになりました。最終的に、チーム内でミスが増え、選手同士の責任の押し付け合いが目立つようになったといいます。
この事例が示すように、指導者の不一致は、選手間の信頼関係やチーム全体の結束力にも影響を与えるのです。
3. 指導者同士のすれ違いが「感情の対立」に発展することも
指導方針のズレは、技術論だけの問題ではありません。背景には、「育成を重視するか、勝利を優先するか」「結果を求める時期をどう捉えるか」といった価値観の違いがあります。
そのため、放置すると“指導理念そのものの衝突”に発展することもあります。
ある高校チームでは、監督が「3年生を中心に勝ちにいく」と方針を掲げた一方、若手コーチは「下級生を使って将来に備えるべきだ」と主張しました。
どちらも正しい考え方ではありますが、話し合いをせずにそれぞれが独自に選手へ指導を行ったため、チーム内に「誰を信じればいいのか」という不安が広がり、結局、全体の士気が低下してしまいました。
このような事例から分かるのは、方針のズレは放置すれば人間関係の摩擦につながるということです。コーチングの軸を共有するための“定期的な対話の場”を設けることが何より大切です。
4. チーム内調整の成功事例:意見の「すり合わせ」を仕組み化する
一方で、うまく連携をとっているチームには共通点があります。それは、「方針をすり合わせる仕組み」が明確に存在していることです。
たとえば、あるクラブチームでは、毎週の練習前に15分間、コーチ陣が指導テーマを共有、指導後には「今日の練習で伝わりにくかった点」「次回の改善点」を全員で振り返り戦術方針や育成の優先順位を文書化し、全コーチが確認できるようにしている
といった運用をしています。
この取り組みを続けたことで、選手へのメッセージが一貫し、「誰から指導を受けても同じ方向を感じる」という信頼感が生まれたそうです。
重要なのは、意見を“統一”することよりも、お互いの意図を理解した上で「方向性を合わせる」ことです。異なる視点を持つコーチ同士が、チームの理念という“共通の土台”の上で話し合うことができれば、むしろ多様なアプローチがチームの成長を促す力になります。
5. 若手コーチ育成の観点からも「連携」は不可欠
もうひとつ見逃せないのが、指導者間のズレが若手コーチの成長機会を奪うという点です。
若手コーチがベテランの方針と違う考えを持つのは当然のことです。大切なのは、それを否定するのではなく、建設的に議論できる環境を整えることです。
たとえば、チーム全体のミーティングとは別に、「コーチング勉強会」や「ケーススタディ共有会」を定期的に実施することで、若手コーチが意見を述べ、学びを深める機会を作ることができます。
こうした場があると、指導方針のズレを“衝突”ではなく“成長のきっかけ”に変えることができます。
6. 指導方針を一致させるための3つの実践ポイント
最後に、チーム内のズレを防ぐために押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
- 理念の共有を定期的に行う
― シーズン開始時だけでなく、期間ごとに「今、何を優先しているのか」を確認しましょう。 - 選手への言葉を統一する
― 指導者同士の発言のニュアンスを揃えることで、選手が迷わなくなります。 - 疑問や違和感を“話せる空気”をつくる
― ズレは起こるもの。その前提で、意見を出しやすい環境を整えることが何より重要です。
指導者間で指導方針がズレると何が起こるか | まとめ
指導者間の方針のズレは、チームを混乱させるだけでなく、選手の成長をも阻む要因になりかねません。しかし、ズレそのものが悪いわけではなく、ズレをどう扱うかがチームの成熟度を決めます。
共通の理念を基盤に、意見を出し合い、すり合わせる。そのプロセスこそが、選手にとっても「チームとは何か」を学ぶ貴重な機会になるのです。指導者同士が同じ方向を見つめ、互いの強みを生かし合う。その積み重ねが、“一貫した指導”と“信頼されるチーム”をつくる最大の土台となります。