「戦術理解」が遅い選手へのアプローチ

スポーツの世界では「戦術理解」が試合の勝敗を大きく左右します。
監督やコーチが描く戦略を選手一人ひとりがどれだけ理解し、ピッチ上で瞬時に実行できるか。それがチームの完成度を決めると言っても過言ではありません。しかし現場に目を向けると、練習では真面目に取り組んでいるのに「戦術理解が遅い」と評価される選手が少なからず存在します。戦況の変化に対応できず、監督の指示をうまく反映できないために出場機会を逃してしまうこともあります。
では、なぜ戦術理解のスピードに差が生まれるのでしょうか。そして、その遅れを埋めるにはどのようなトレーニングが有効なのでしょうか。
「戦術理解」が遅い選手へのアプローチ
戦術理解の遅れは「頭の回転の遅さ」ではない
まず押さえておきたいのは、「戦術理解が遅い=頭が悪い」では決してないということです。戦術を素早く理解できるかどうかは、認知能力や経験、さらには学び方のタイプによって左右されます。たとえば、抽象的な説明だけではイメージできず、実際に動いてみないと理解が進まない選手もいます。逆に、映像や図解を見せられることで一気に頭に入る選手もいます。
また、プレーの経験値が少ない選手ほど「状況の引き出し」が不足しており、戦術を自分の中で結びつけるのに時間がかかります。これは単純に学習の過程であり、練習方法を工夫することで大きく改善されていきます。重要なのは、戦術理解のスピードを「センスの差」と片付けず、どうすれば認知と理解の回路を育てられるかを考えることです。
思考スピードを高める鍵は「情報処理能力」
試合中に選手が直面するのは、複雑で目まぐるしく変化する状況です。相手の位置、味方の動き、ボールの軌道、残り時間、スコア――一瞬で多くの情報を処理し、最適解を選ばなければなりません。この「情報処理能力」が高い選手ほど、戦術の理解や実行も速くなります。
では、情報処理能力はどのように鍛えることができるのでしょうか。大きく分けて3つのアプローチがあります。
映像学習による視覚的理解
実際の試合映像や戦術ボードを用いて「この場面ではどこにポジションを取るべきか?」と問いかける学習法です。止めた映像から次のプレーを予測させる「フリーズ映像トレーニング」は特に有効です。思考を止めて「考える時間」を確保することで、判断のプロセスが整理されていきます。
小さなゲーム形式での反復練習
フルコートよりも狭いスペースで行う4対4や5対5などのゲーム形式は、認知負荷を減らしつつ状況判断の反復を可能にします。特定の戦術をテーマに絞り込み、そこで繰り返し判断を迫ることで、理解のスピードが自然と高まります。
口頭説明ではなく「問いかけ」で理解を促す
一方的に「ここではこう動け」と指示を出すだけでは、選手の思考は深まりません。指導者が「なぜここでパスを選んだのか?」と問いかけることで、選手は自分の判断を言語化し、次に活かせるようになります。思考を言葉に変換するプロセスは、戦術理解を大きく加速させます。
「考える余裕」を持たせる練習環境
戦術理解が遅い選手の多くは、試合になると焦ってプレーが雑になります。これは「考える余裕」がないことが大きな原因です。スピードと正確さを両立させるには、段階的に負荷を調整する必要があります。
たとえば、最初は時間制限を設けずに戦術を実行させ、成功体験を積ませます。次の段階でプレッシャーを加え、さらに制限時間を短くしていく。こうしたステップを踏むことで「考える余裕」を徐々に試合レベルに近づけていくことができます。最初から高いプレッシャーをかけすぎると、理解が追いつかず「自分にはできない」と諦めてしまう恐れがあります。指導者は、選手の理解度に応じて環境を調整することが求められます。
戦術理解を「個の成長」に結びつける
戦術理解を深めることは、単にチームの勝利のためだけではありません。選手個人にとっても、自分のプレーに確信を持てるようになり、試合で堂々と振る舞えるようになる大きなステップです。「戦術がわからないから試合に出られない」という不安は、選手のモチベーションを著しく下げます。逆に、「戦術を理解しているから自分の役割を果たせる」という自信は、自己肯定感を高め、さらなる成長につながります。
指導者にできるのは、戦術理解の差を「できる・できない」で線引きするのではなく、成長のための課題として位置づけることです。戦術は学べば必ず理解が深まります。選手が自信を持ち、楽しみながら取り組める環境を整えることこそ、思考スピードを高める最大の近道と言えるでしょう。
「戦術理解」が遅い選手へのアプローチ | まとめ
戦術理解が遅い選手に対して必要なのは、「センスがない」と切り捨てることではなく、理解を助ける工夫です。映像や小ゲームを使った学習、問いかけによる思考の促進、段階的なプレッシャー調整――これらを積み重ねることで、思考スピードは確実に高まります。そして、その成長はチーム全体の戦術完成度を押し上げ、選手個人の自信を強固にします。
戦術理解は一部の才能ある選手だけのものではありません。指導者の関わり方次第で、誰もが「考えて動ける選手」へと進化するのです。