1. HOME
  2. ブログ
  3. “褒め方”の質で選手は変わる

“褒め方”の質で選手は変わる

「選手を褒めて伸ばす」

この言葉は、多くのスポーツ現場で耳にするようになりました。

しかし、実際のところ、「どう褒めるか」「どのタイミングで声をかけるか」によって、選手の受け取り方や成長の方向性は大きく変わってきます。

表面的な「ナイス!」「いいね!」といった言葉では、一時的に気分が上がっても、競技力の本質的な向上にはつながらないこともあります。選手の内面には、“認められたい”“評価されたい”という承認欲求が存在しており、それが成長へのモチベーションと密接に関係しています。

本記事では、選手のやる気と競技成長を引き出す「褒め方の質」に着目し、実践的なフィードバックの設計方法をご紹介します。

なぜ「褒めること」が重要なのか?

誰しも「認められたい」という気持ちを持っています。特に成長期の選手は、周囲の大人や仲間からの評価によって自己肯定感を形成し、それが行動や目標設定に大きく影響します。

スポーツの現場では、ミスや課題に目が向きやすく、ついつい「もっとこうしろ」「なぜできないんだ」といった指摘型の声かけが多くなりがちです。

しかし、こうした指導が続くと、選手は「やっても怒られるだけ」と感じ、積極性や挑戦心を失ってしまいます。

だからこそ、“正しく褒める”ことは、選手の主体性・継続意欲・成長意欲を引き出すうえで、非常に大きな意味を持っているのです。

ポイントは「質」- 褒め方の3つの分類

褒めることは大切ですが、やみくもに「すごい!」「うまいね!」と言っているだけでは逆効果になることもあります。選手に届き、行動変容を促すには、“褒め方の質”が重要です。

ここでは、褒め方を3つのタイプに分けて解説します。

① 表面的な賞賛(結果だけを褒める)
例:「ナイスゴール!」「勝ってすごい!」

→ 瞬間的には嬉しいが、選手は「勝たないと褒められない」と誤解しやすく、失敗を恐れるようになります。

② 行動の評価(プロセスを褒める)
例:「最後まで走り切った姿勢が良かった」「ポジションを意識して動けていたね」

→ 選手の努力や行動に目を向けた声かけは、「また頑張ろう」という前向きな気持ちを引き出します。

③ 内面の成長を認める(人間性や考え方に焦点を当てる)
例:「苦しい時でもチームのことを考えて声を出していたのが素晴らしい」「悩みながらも工夫していたね」

→ 内面的な成長に触れることで、選手は「自分の本質が認められた」と感じ、競技との関わり方が深まります。

このように、「結果」ではなく「過程」や「内面」に焦点を当てた褒め方こそが、選手の根本的なモチベーションを育てていくのです。

承認欲求は悪ではない。むしろ武器になる

「承認欲求」というと、どこかネガティブに捉えられがちですが、決して悪いものではありません。むしろ、「もっと認められたい」「成長を実感したい」という気持ちは、選手にとって大きな原動力になります。

問題は、その欲求の“出し方”と“受け取り方”です。

たとえば、「コーチに褒められないとやる気が出ない」という状態では、外部評価に依存してしまい、自律的な成長が難しくなります。

そこで大切なのは、「他者評価」から「自己評価」への橋渡しをするような褒め方です。

モチベーションを引き出す“問いかけ”とセットのフィードバック

質の高い褒め方は、一方通行ではありません。

選手自身に「どう感じた?」「今日の中で一番工夫したところは?」と問いかけることで、褒められた内容を自分の言葉で再確認し、内省を深めることができます。

例:

「さっきのプレー、どうしてあの選択をしたの?」
「その工夫、昨日の反省から思いついたの?」

このような対話を重ねることで、選手は自らの努力や成長を実感し、それがさらなる行動につながっていきます。

指導者の声かけが選手の“成長の物語”を形づくる

褒めることは、選手の中にある“ストーリー”を育てる作業です。

ただ技術が上手くなるだけでなく、失敗を乗り越えた経験や、仲間を思いやった瞬間も、その選手だけの“成長の物語”として蓄積されていきます。

指導者がそれを見逃さず、「ちゃんと見ているよ」と言葉で伝えることで、選手は競技との向き合い方に深さを持ち始めます。

“褒める”は技術であり、愛情の表現でもある

競技に向き合う選手にとって、指導者の言葉は大きな影響力を持っています。

だからこそ、褒め方ひとつで選手の未来は変わります。

「よくやったね」の一言が、「また頑張りたい」という原動力になる。「見てくれていたんだ」という実感が、継続のエネルギーになる。

褒めるとは、選手の可能性に目を向け、背中を押すこと。それは指導者にとって、最も人間的で、力強い指導の一つなのではないでしょうか。

関連記事