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怪我予防とパフォーマンス向上の両立

育成年代の指導において、最も難しいテーマのひとつが「トレーニング負荷の調整」です。

成長期の選手は身体の発達スピードに個人差が大きく、心身のバランスも不安定です。

無理なトレーニングは怪我やスランプにつながりやすい一方で、過保護すぎる指導では競技力の向上が遅れてしまいます。

では、どうすれば「怪我予防」と「パフォーマンス向上」を両立できるのでしょうか。

本記事では、成長期特有のリスクと、現場で実践できる負荷管理のポイントを解説します。

怪我予防とパフォーマンス向上の両立

1. 成長期の身体は「変化の途中」にあることを理解する

まず押さえておきたいのは、成長期の身体は“未完成”であり、“変化の連続”だということです。

身長の伸びが急激に起こる「スパート期」では、骨の成長が筋肉や腱の発達を追い越すため、筋の柔軟性が一時的に低下します。
その結果、関節へのストレスが増え、「オスグッド病」「シーバー病」「腰椎分離症」など、成長期特有の障害が発生しやすくなります。

指導者がこの特性を理解していないと、成人選手と同じような練習メニューや走り込みを課してしまい、「やる気はあるのに身体がついてこない」という状況を生み出します。

つまり、成長期の指導では、“結果”よりも“適応の段階”を見極める目が必要なのです。

2. 成長曲線に合わせた負荷設計を行う

トレーニング負荷を考えるうえで有効なのが、「成長曲線(PHV:Peak Height Velocity)」の活用です。
PHVとは、身長が最も急激に伸びる時期を指し、この前後1〜2年は特に怪我のリスクが高まります。

この時期に必要なのは、「筋力アップ」よりも「動きの質の向上」です。
身体が変化している最中に無理な筋トレを行うと、姿勢やフォームが崩れ、かえってパフォーマンスを下げてしまうことがあります。

たとえば、以下のように段階的なアプローチを取ると良いでしょう。

  • PHV前(小学校高学年〜中1)
    → 身体の動かし方を学ぶ。バランス、柔軟性、リズム、コーディネーションを重視。
  • PHV期(中1〜中2)
    → 身体の成長を観察しながら負荷を調整。体幹安定性やストレッチを中心に、無理のない範囲で筋力維持。
  • PHV後(中3〜高校)
    → 徐々に筋力トレーニングやスプリント系の負荷を高め、パフォーマンス向上へと移行。

こうした段階的な指導により、「成長に追いつくトレーニング」が可能になります。

3. 練習量ではなく「回復の質」で差がつく

近年、スポーツ科学では「回復(リカバリー)」の重要性が強調されています。
疲労を溜めたまま練習を重ねると、パフォーマンスが低下するだけでなく、慢性的な障害のリスクも増加します。

成長期の選手にとって、“練習=成長”ではなく、“回復も成長の一部”です。睡眠時間の確保、栄養補給のタイミング、ストレッチやアイシングの習慣など、「練習外の時間の過ごし方」こそが、身体づくりのカギを握ります。

指導者は練習量を増やす前に、
「昨日の疲労は取れているか?」「睡眠時間は足りているか?」といった確認を行うことで、怪我の予兆を早期に発見できます。

4. 「痛みを我慢させない」文化をつくる

多くの成長期の怪我は、「我慢」で悪化します。選手自身が「チームに迷惑をかけたくない」「試合に出たい」という思いから痛みを隠し、結果的に重症化してしまうのです。

そこで重要なのが、「痛みを伝える勇気を評価する」文化づくりです。
たとえば、

「早く言ってくれてありがとう。君の判断がチームを救ったよ」
といった声かけをすることで、選手は安心して自分の身体の状態を報告できるようになります。

痛みを“弱さ”ではなく“自己管理能力”と捉える風土を育てることが、長期的な成長につながります。

5. データと感覚を両立させたモニタリング

近年では、GPSや心拍計、RPE(主観的運動強度)などを活用した負荷管理が進んでいます。これらのデータは、成長期選手のトレーニング可否を判断するうえで非常に有効です。

しかし同時に、指導者が注目すべきは「選手の表情や言葉」です。数字では測れない“ちょっとした違和感”を見逃さない観察力が、怪我の予防につながります。

たとえば、「今日は集中できていない」「動きが重い」「反応が遅い」と感じたときは、即座に負荷を下げる判断が必要です。科学と感覚の両輪で、選手の状態を丁寧に見守る姿勢が求められます。

6. 指導者が意識すべき「長期目線」

短期的な勝利や大会結果を重視しすぎると、どうしてもトレーニング負荷を上げたくなります。しかし、育成年代において最も大切なのは“将来の可能性を広げること”です。

成長期に無理をして怪我をすれば、将来のキャリアに大きな影響を及ぼします。逆に、今の時期に正しい負荷管理を身につけた選手は、長く競技を続けられる体を手に入れます。

指導者が「今の勝利より、5年後の成長」を見据えることで、選手は安心して挑戦できる環境の中で、自ら考え、行動する力を育んでいきます。

怪我予防とパフォーマンス向上の両立 | まとめ

成長期の選手に対するトレーニングは、繊細なバランスの上に成り立っています。

成長期は「変化の途中」であることを理解する
成長曲線に合わせて負荷を段階的に調整する
回復と睡眠を「トレーニングの一部」として捉える
痛みを我慢させず、報告しやすい環境をつくる
データと観察を組み合わせて状態を見極める
長期的な視点で“将来の身体”を守る

この6つを意識することで、怪我のリスクを抑えながら、選手の成長を最大限に引き出すことができます。

トレーニングは「量」より「質」、そして「継続」。その基盤をつくるのが、成長期の適切な負荷調整なのです。

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