成長期の選手に「技術」よりも伝えたいこと

サッカーやその他のスポーツにおいて、ジュニア期(小学生~中学生)の指導は、選手のその後を大きく左右する極めて重要な時期です。
テクニックや戦術理解を教え込むことに注力しがちなこの年代ですが、本当に大切なのはスキル以上に“人としての土台”を育てることにあります。
今回は、技術習得以前に育てたい「姿勢」や「考え方」、そしてなぜジュニア年代にそれを身につけることが重要なのかを深掘りしていきます。
技術だけでは勝てない、将来を見据えた“心と頭”の育成
子どもたちの成長には個人差があります。身長や筋力が発達していない時期に、技術だけを詰め込もうとすると、体の使い方に偏りが出たり、モチベーションの維持が難しくなったりします。
ジュニア期に最も重視すべきは、「技術そのもの」ではなく、「技術を学び取る姿勢」と「自分で考える力」を育てることです。
例えば、ただ指示を待つ選手よりも、自ら動き、考え、失敗から学ぶ選手の方が、将来的な伸びしろは圧倒的に大きくなります。
試合中の判断力や応用力、状況に応じたプレー選択は、子どものうちに“自ら考える経験”を積んでいなければ育ちません。
つまり、技術は“手段”であり、それを活かす“土台”がなければ、本当の意味での競技力は育たないのです。
指導者が育てるべき3つの「非技術的要素」
ここでは、ジュニア期の選手にとって特に大切な3つの「スキル以前の力」について紹介します。
1. 素直さと自己肯定感
教えを素直に受け取れる力は、どんなレベルの選手にとっても成長の鍵です。「できなかった」ことに目を向けすぎると、自信をなくし、チャレンジを避けるようになります。
だからこそ、指導者は「できたこと」にも目を向けさせ、自信を育てる必要があります。
成功体験は小さなもので十分です。たとえば「今日は最後まで走りきったね」「昨日よりも声が出ていたよ」といった声かけが、子どもたちの自己肯定感を高め、伸び続ける原動力になります。
2. チームへの貢献意識
ジュニア期の選手は、まだ自己中心的な思考が強く、個人プレーに走りがちです。しかし、チームスポーツにおいては、「誰かのために走る」「仲間を助ける」という視点が不可欠です。
指導者は、勝敗や個人成績だけに目を向けず、チームの中で自分がどう貢献できるかを問いかけるようにしましょう。試合後の振り返りで「今日、誰かを助けた場面はあった?」といった質問をすることで、自然と視野が広がり、仲間との関係性も深まっていきます。
3. 考える習慣と思考の言語化
「なぜこのプレーを選んだのか?」「もっと良い選択肢はなかったか?」と選手に問いかける習慣は、判断力と応用力を育てます。指導者がすぐに正解を教えるのではなく、ヒントを与え、考えさせることが重要です。
さらに、「自分の考えを言葉で説明する力」も同時に鍛えることができます。これによって選手のプレーの再現性が高まり、振り返りや改善ができるようになります。中学生、高校生になったとき、「考えて動ける選手」になっているかどうかは、ジュニア期のこうした習慣づけにかかっています。
勝利よりも「育成」を優先すべき理由
ジュニア年代の指導でしばしば課題になるのが、“勝利至上主義”です。大会で勝つこと、目先の成果を出すことを目的にした結果、固定メンバーで戦い続けたり、試合に出られない選手が生まれたりするチームも少なくありません。
しかし、選手にとって最も大切なのは「成長できた」「自分が必要とされている」と感じられる経験です。ジュニア期のうちに多様なポジションを経験させたり、たとえ失敗してもチャレンジさせたりすることで、“将来の可能性”を広げていくことができます。
この年代は、勝つための結果を追うよりも、「どれだけ多くの選手が、スポーツを好きになり、自ら学ぶ姿勢を持てるようになったか」に価値を置くべきなのです。
成長期の選手に「技術」よりも伝えたいこと | まとめ
ジュニア期の指導は、目に見える結果が出にくく、もどかしさを感じることもあるかもしれません。
しかし、選手の「姿勢」「考え方」「人間性」といった“目に見えない土台”を丁寧に育むことこそが、将来の大きな成果につながります。
テクニックや戦術は後からでも身につきます。しかし、人間としての土台が整っていないと、それらを活かしきることはできません。
今、目の前にいる子どもたちが、将来どんな選手・どんな人間になってほしいか。そのビジョンを持ち続けながら、日々の練習をデザインしていく。それが、ジュニア年代の指導者に求められる最も重要な姿勢なのです。