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「もっと考えろ」が最も考えない選手を作る理由

「もっと考えてプレーしろ。」

スポーツの現場では、ごく当たり前のように使われる言葉です。

判断が遅かった時。
同じミスを繰り返した時。
指示通りに動けなかった時。

指導者は「自分で考えてほしい」という思いから、この言葉を口にします。

しかし、不思議なことに、「もっと考えろ」と言われ続けた選手ほど、自分で考えられなくなることがあります。

これは決して選手の能力が低いからではありません。

実は、その言葉のかけ方自体が、選手の思考を止めてしまっている可能性があるのです。

「考えろ」は指示ではなく抽象論

「もっと考えろ」という言葉には、大きな問題があります。それは、何をどう考えればいいのかが分からないことです。

例えば、

「もっと走れ。」

と言われれば、走る距離やスピードを意識できます。

しかし、

「もっと考えろ。」

と言われても、

何について考えるのか。
何を基準に判断するのか。
どこを見ればいいのか。

これらが示されていません。

つまり、「考えろ」は指導ではなく、抽象的な要求になってしまっているのです。

選手は「正解探し」を始める

「もっと考えろ」と言われ続けると、選手は本当に考えるのではなく、

「コーチの正解は何だろう。」と考え始めます。

怒られない答え。
褒められるプレー。
コーチが喜ぶ判断。

これを探すようになります。

すると、思考の目的が「良い判断をすること」ではなく、「評価されること」に変わります。一見考えているように見えても、それは自分の判断ではありません。コーチの答えを予想しているだけなのです。

考えるには「安心」が必要

人は強いストレスの中では、思考力が低下します。

例えば、

「またミスしたら怒られる。」
「失敗したら交代させられる。」

そんな状況では、脳は新しい判断をしようとせず、安全な行動を選ぼうとします。つまり、「考える」より「失敗しない」ことが優先されるのです。

だからこそ、主体的な判断を育てたいのであれば、失敗しても学べる安心感が必要になります。

「考える」は経験の積み重ね

優れた判断は、頭の回転だけで生まれるものではありません。

試して。
失敗して。
修正して。
また挑戦する。

この繰り返しによって、思考は深くなります。

ところが、選手が考えた結果ミスをすると、「だから違うって言っただろ。」とすぐ答えを教えてしまう指導では、この経験が積み上がりません。考える前に正解が与えられるため、自分で判断する力が育たないのです。

良い指導者は「問い」を与える

主体性を育てる指導者は、「もっと考えろ」とはあまり言いません。

代わりに問いを投げかけます。

「今、相手は何を狙っていたと思う?」
「他に選択肢はあった?」
「次に同じ場面が来たらどうする?」

こうした問いには正解が一つではありません。だから選手は、自分の頭で整理し、自分なりの答えを探します。このプロセスこそが、「考える力」を育てるのです。

「待つ」ことも指導技術

考える選手を育てるには、指導者の忍耐も必要です。答えを言えば30秒で終わる場面でも、選手に考えさせれば5分かかるかもしれません。

その沈黙に耐えられるか。
失敗を見守れるか。
遠回りを受け入れられるか。

実はここが、指導者として最も難しい部分です。

しかし、その遠回りがあるからこそ、選手は自分の力で考えられるようになります。

「考えろ」より「何が見えた?」

もし選手の思考を引き出したいのであれば、言葉を少し変えるだけでも効果があります。

「もっと考えろ。」

ではなく、

「今、何が見えていた?」
「どうしてその判断を選んだ?」
「他にはどんな選択があったと思う?」

こうした質問は、選手の思考を否定するのではなく、引き出す言葉です。答えを押しつけるのではなく、思考を整理する手助けになります。選手は、自分の考えを言葉にすることで、初めて思考を深めていくのです。

「考えろ」ではなく「考えられる環境」をつくる

「もっと考えろ。」この言葉には、選手への期待が込められています。

しかし、その一言だけでは、考える力は育ちません。むしろ、正解探しをする選手や、失敗を恐れて何も判断できない選手を生み出してしまうことがあります。

本当に考える選手を育てたいのであれば、必要なのは命令ではなく環境です。

安心して挑戦できること。
問いを通して思考を引き出すこと。
失敗を学びに変えること。
そして、答えを急がず待つこと。

考える力は、「考えろ」と言われて身につくものではありません。自分で考え、自分で試し、自分で気づく経験を積み重ねることで初めて育まれます。その環境をつくることこそが、指導者に求められる本当の役割なのです。

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