“うまくなる子”は、なぜコーチの話をよく聞くのか?

スポーツの現場で長年選手を見ていると、「同じ練習をしているのに、伸びる子とそうでない子がいる」と感じることがあります。
その違いは、技術や体格ではなく、“聞く力”に現れることが少なくありません。
「この子は伸びるな」と感じる選手の多くは、コーチの話をよく聞いている子です。それは単に「素直」というだけではなく、話の“中身”を理解し、行動に移すまでのスピードが早いという特徴にも表れます。
本記事では、「聞く力=傾聴力」が選手の成長にどのように関わっているのか、さらに、リーダーシップとどのように結びつくのかを掘り下げてご紹介します。
技術よりも“聞き方”が成長の差を生む
スポーツにおいて、技術を磨くことはもちろん重要です。しかし、技術を吸収し、自分のものにするためには、「正しい情報を得て、理解し、実践する」というプロセスが欠かせません。
その最初の入り口となるのが、“聞く姿勢”です。
話を遮らず、最後まで聞く
自分が言われていないことも、周囲の指導から学ぼうとする
自分のミスや改善点を素直に受け止める
こうした傾聴の姿勢がある選手ほど、修正能力が高く、成長スピードも早い傾向にあります。つまり、“聞く力”は、学びの土台なのです。
傾聴力は「自分を高める力」
聞くことは、受け身の行動ではありません。相手の話を集中して聞き、その意図を汲み取ろうとすることは、極めて能動的な行為です。
特に育成年代の選手にとっては、この“能動的な傾聴”こそが、自分の課題に気づき、より良いプレーを模索するための重要なスキルです。
たとえば、
「もっと周りを見よう」と言われたときに、なぜそれが必要なのかを理解しようとする選手
「守備の距離が遠い」と指摘されたときに、自分の動きを頭の中で再生できる選手
こうした選手は、耳だけでなく“心”でも話を聞いています。そしてその姿勢が、結果としてプレーの質に反映されていくのです。
リーダーシップは「聞くこと」から始まる
「リーダーシップ」と聞くと、強く指示を出したり、声を張って仲間を鼓舞したりする姿をイメージするかもしれません。
確かにそうした面もありますが、真に信頼されるリーダーには、人の話をよく聞く力があります。
リーダーは孤立していては務まりません。仲間の声に耳を傾け、理解しようとする姿勢があってこそ、周囲は「この人ならついていける」と感じるのです。
つまり、傾聴力はコミュニケーション能力そのものであり、周囲と信頼関係を築く土台でもあります。若くしてキャプテンに選ばれる選手や、自然と中心に立つ選手には、この“人の話を聞く力”が備わっていることが多いのです。
傾聴力を高めるために、指導者ができること
傾聴力は、生まれつきの性格ではなく、育てることができる力です。選手に「よく聞く子になってほしい」と願うなら、まず指導者自身が以下のような姿勢を持つことが重要です。
① 話す前に「なぜこの話をするのか」を伝える
選手が集中して話を聞くには、「この話は自分に関係ある」と感じる必要があります。導入部分で「この話は、君たちの守備の連携を良くするためだよ」と伝えるだけで、話への集中度は大きく変わります。
② 話の後に「どう思ったか?」を聞く
一方通行の指導ではなく、「さっきの説明で何か気づいたことは?」と問いかけることで、選手自身の内省が促されます。それは「聞いて終わり」ではなく、「考えるきっかけ」として話を聞く習慣を育てます。
③「話を聞いてくれてありがとう」と伝える
選手が話を真剣に聞いてくれたときに、その姿勢自体を承認してあげると、「聞くこと」に対するポジティブな印象が強化されます。これも傾聴力を育てる小さな積み重ねです。
「聞く姿勢」がチームの空気を変える
指導者の話をしっかり聞く選手が一人いるだけで、チーム全体の空気が変わります。その姿勢は周囲に伝染し、チームに“話を聞く文化”が生まれていきます。
やがてそれは、試合中の声の掛け合いや、選手同士の信頼関係、ミーティングでの質の高い意見交換といった場面にも波及し、チーム全体の成熟度を高めていきます。
つまり、「よく聞く子」は、うまくなるだけでなく、チームのリーダーになっていく素地を持っているのです。
「聞くこと」は最大の自己成長ツール
スポーツの技術は、身体の使い方だけで成長するものではありません。どれだけ多くを吸収し、言葉を自分の中で消化し、行動に変えられるか。
そのために必要なのが、「人の話を聞く力」なのです。
“うまくなる子”は、コーチの話をただ「聞いている」のではなく、「自分の成長に変える形で受け取っている」のです。そしてその姿勢が、周囲からの信頼を集め、やがてリーダーとしての力へと変わっていきます。
「聞くことは、才能ではなく習慣」
今日から、チームでその習慣を育ててみませんか?