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「やらされ感」のある選手が自ら動き出す瞬間

スポーツの現場でよく耳にする悩みのひとつに、「あの子は練習を真面目にこなしてはいるけれど、どこか主体性が感じられない」というものがあります。指示されたことは淡々とこなすが、自ら工夫する様子がない。言われたこと以上のことに挑戦しようとしない。

こうした状態はしばしば“やらされ感”と表現されます。

一見すると真面目で問題がないようにも映りますが、実は成長の大きな壁となり得るのがこの“やらされ感”です。

なぜなら、選手が本当に伸びていくためには、外から与えられた目標ではなく、自らの意思で動こうとする「内発的動機づけ」が欠かせないからです。

では、指導者はどのようにすれば選手の内発的動機を引き出せるのでしょうか。ここでは心理学の知見や現場での工夫をもとに、そのヒントを探っていきます。

内発的動機づけを引き出す方法

1. 外発的動機づけと内発的動機づけの違い

まず理解しておきたいのは、「動機づけ」には大きく分けて2種類あるということです。

外発的動機づけ:報酬や罰など、外部の要因によって動く状態。たとえば「試合に出たいから頑張る」「怒られたくないから練習する」といったもの。

内発的動機づけ:自分の中の興味や好奇心、達成感を求めて動く状態。「もっと上手くなりたい」「プレーしているのが楽しい」と感じて取り組むこと。

外発的動機づけも短期的には力を発揮する要因になります。しかし長続きしないのが弱点です。試合に出られなくなったり、褒められなくなった瞬間、モチベーションは急落してしまいます。

一方で、内発的動機づけを持っている選手は、自分自身の喜びや成長を原動力にしているため、困難な状況でも粘り強く努力を続けられます。

つまり、指導者が本当に育てたいのは「自ら動ける選手」であり、そのためには内発的動機をいかに育むかが重要になるのです。

2. 「やらされ感」が生まれる背景

ではなぜ、“やらされ感”の状態に陥ってしまうのでしょうか。主な背景には次のようなものがあります。

指導が「指示」や「命令」に偏り、選手が自分で考える余地がない
結果や評価ばかりを強調され、失敗を恐れる気持ちが強まる
「自分で選んでいる」という感覚がなく、常に受け身になっている
成長を実感できず、努力の意味を見失っている

これらの状況では、選手は「やらされている」と感じ、練習や試合が義務感でしかなくなってしまいます。すると、短期的には指導者の指示で動けても、長期的には自らの力を発揮する場面で伸び悩んでしまうのです。

3. 内発的動機を引き出す3つの鍵

心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」では、人が内発的に動くために必要な要素として、次の3つを挙げています。

(1)自律性

「自分で選んでいる」という感覚を持てること。
→ 練習メニューの一部を選ばせたり、役割を自分で決めさせたりすることで育まれます。

(2)有能感

「自分はできる」「成長している」と実感できること。
→ 小さな成功体験を積み重ねる声かけや、成長の過程を具体的にフィードバックすることが有効です。

(3)関係性

仲間や指導者とのつながりを感じられること。
→ チームでの役割を明確にし、互いに認め合える雰囲気を作ることで強まります。

この3つが満たされると、選手は「やらされている」状態から「自らやりたい」と感じる方向にシフトしていきます。

4. 現場でできる具体的な工夫

理論を理解した上で、実際の現場ではどのようなアプローチができるでしょうか。いくつかの具体例を紹介します。

練習メニューに選択肢を与える
「今日はドリブルかパス練習、どちらを先にやるか選んでいい」といった小さな選択肢で十分です。自律性を感じやすくなります。

成長の“過程”を認める
「まだ成功していないけど、前よりスピードが上がったね」といった声かけで、有能感を高めます。

役割を与える
「今日は守備の声出しリーダーを任せる」といった役割は、チームへの貢献感を育みます。

質問で考えさせる
「今のプレー、他にどんな選択肢があった?」と問いかけることで、自ら考え行動する習慣を促します。

こうした工夫の積み重ねが、選手の「自分で動きたい」という気持ちを呼び覚ましていくのです。

5. 選手が自ら動き出す瞬間

やらされ感の強い選手でも、ある日突然、自ら動き出す瞬間があります。

それは、

自分の成長を実感したとき
チームに貢献できた喜びを味わったとき
指導者や仲間に認められたとき

などです。

その瞬間、選手の目の輝きが変わります。指示を待つのではなく、自ら工夫して動き出す姿に変わるのです。

指導者にとって、その変化を見届けることこそ大きな喜びではないでしょうか。

内発的動機づけを引き出す方法

“やらされ感”のある選手を責めるのではなく、なぜそう感じているのかを理解し、内発的動機づけを引き出す環境を整えることが指導者の役割です。

「自分で選びたい」「できるようになりたい」「仲間とつながりたい」この3つの欲求を満たす工夫を重ねていくことで、選手は必ず変わります。

そして、自ら動き出す選手が増えるチームこそ、本当の意味で強くなるチームなのです。

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